アレルギー疾患対策基本法およびアレルギー疾患医療拠点病院・専門病院

アレルギー診療をとりまく背景・環境

アレルギー疾患は年々増加の途を辿り、最近20年間でその患者数は2倍に増え、いまや国民の2人に1人が何らかのアレルギー疾患を患っているとされる。アレルギーはCommon Diseasesであるとの認識が高まる一方で、難治性喘息や難治性アトピー性皮膚炎、薬疹、複雑な病型の食物アレルギーなど、アレルギー専門医による診療が求められる場面が決して少なくない。がん、悪性疾患のように直接的に寿命を短縮する病態ではないものの、日々の生活のなかで生じるアレルギー諸症状は国民のQOLを低下させている。

アレルギー疾患のコントロール不良は、労働効率の悪化や学業への悪影響など、国全体の生産性の低下につながり、場合によっては重症喘息発作やアナフィラキシーショックなどによる死にも関わっている。直接的な因果関係はいまだ不明ではあるが、motorizationに伴う大気汚染、建築技術の発達による高気密住宅の普及、globalizationによる物流変化によって従来口にすることがなかった食物の摂取機会の増加など、アレルギー疾患の罹患を増加させ得る環境要因も現代社会では無視できない。

こうした背景・環境が指摘される一方、日本アレルギー学会が認定するアレルギー専門医は全国で3,700人程度と対人口比で十分とは言えない状況であり、主要アレルギー6疾患*への対策が講じられている自治体は全体の1割程度に留まっている。また、インターネット・スマートフォンの普及により、国民は気軽に様々な情報にアクセスできるようになったが、ウェブ上に存在する医療・医学に関する知識については玉石混交の状態であり、医学知識の乏しい利用者がアレルギー疾患に関わる良質な情報のみを抽出することは決して容易ではない。
主要アレルギー6疾患*
気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーの6つを指す。

アレルギー疾患対策基本法の成立とその目的

上述した問題を解決すべく第2次安倍晋三内閣は、2014年6月通常国会にてアレルギー疾患対策基本法(以下、基本法)を公布した。同法は第1章から4章、第1条から第22条で構成され、とくに第3章の基本的施策が骨子として重要である。つまり、国は

  1. アレルギー疾患の重症化の予防および症状の軽減
  2. アレルギー疾患医療の均てん化の促進等
  3. アレルギー疾患を有する者の生活の質の維持向上
  4. 研究の推進等
  5. 地方公共団体が行う基本的施策

を強調している。

その後、厚生労働省内にアレルギー疾患対策推進協議会が設置され、2015年12月25日に同法が施行された。同協議会では、アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針やアレルギー疾患医療提供体制の在り方について有識者間で議論が交わされ、より具体的な方策が打ち出され、それらを基盤に各自治体も独自の推進計画を練るようになった。2018年3月には東京都がアレルギー疾患対策推進計画を立て、昭和大学病院も都の打ち出した医療政策、アレルギー疾患に対する医療インフラの整備などに賛同し、これまで積極的に協力体制を整備してきた。

アレルギー疾患医療拠点病院・専門病院の選定・配置

上述の基本法が示す骨子のうち、②アレルギー疾患医療の均てん化の促進等のためには何が必要であろうか。

具体的には「アレルギー疾患を有する者が、その居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切なアレルギー疾患医療を受けることができ、国民がアレルギー疾患に関し、適切な情報を入手することができる」という基本法の理念のもと、医療体制の整備が一昨年頃から順次行われている。国立成育医療研究センター(東京都・世田谷区)と国立病院機構相模原病院(神奈川県・相模原市)の2施設を国の「中心拠点病院」とし、各都道府県にアレルギー疾患医療拠点病院(以下、拠点病院)を1~2箇所設置する方針が立てられた。大都市圏や医療過疎地域などでは例外もあり、県内に6箇所もの拠点病院が設置された自治体も存在する(愛知県や静岡県など)。首都を擁する東京都(人口927万人)には4箇所の拠点病院と、都内各地域でアレルギー疾患の専門診療・医療連携を推進する13箇所のアレルギー疾患医療専門病院(以下、専門病院)が東京都より指定された(表1)

大まかな基準としては、アレルギー専門医・指導医の人数、アレルギー専門医の育成を担う教育研修施設としての認定の有無、各種難治性アレルギー疾患の診療実績などを参考に施設が指定された。日本アレルギー学会の推進している「Total Allergist」(様々な臓器に症状が生じるアレルギーを全人的に診ていく必要があるという視点を持った専門医)の育成という目標とも合致し、都が示した施設の選考要件には、「内科」「小児科」に加え、「耳鼻咽喉科」「皮膚科」「眼科」のいずれかの診療科にアレルギー専門医複数名もしくはアレルギー指導医が在籍することが必要として示されていた。

本選考の結果、2019年2月27日に昭和大学病院は「内科(呼吸器・アレルギー内科)」と「小児科」の2診療科が東京都城南地域(品川区、大田区、目黒区)唯一の専門病院として指定を受けた。

両科とも長年にわたり、すべてのアレルギー疾患とくに難治性喘息や食物アレルギー、アナフィラキシーの診療・研究に長けた施設であり、これまでも関連諸学会・研究会における学術活動が盛んな施設であった。同領域の診療に関しては近隣地域のみならず日本全国からの信頼が厚く、有数の専門医療機関・研究施設として認知されてきた。同様の指定を受けた医療機関は都内では同愛記念病院(墨田区)のみであり、新生児から高齢者まで全ライフステージにおけるアレルギー疾患とくに食物アレルギーの診療を単一施設内でカバーできる本邦でも稀少な医療機関であると自負している。

表1

医療機関名 診療領域 所在地
慶應義塾大学病院 内科 新宿区
東京女子医科大学病院 内科 新宿区
日本医科大学付属病院 皮膚科、耳鼻咽喉科 文京区
同愛記念病院 内科、小児科 墨田区
昭和大学病院 内科、小児科 品川区
日本大学医学部附属板橋病院 内科 板橋区
帝京大学医学部附属病院 内科 板橋区
東海大学医学部付属八王子病院 小児科 八王子市
東京都立多摩総合医療センター 内科 府中市
公立昭和病院 小児科 小平市
東京慈恵会医科大学附属第三病院 小児科 狛江市
独立行政法人国立病院機構東京病院 内科 清瀬市
公益財団法人結核予防会複十字病院 内科 清瀬市

昭和大学病院の今後の取り組み

次回の都による施設の更新・再指定に向けて、更なるアレルギー専門医の育成に当科と小児科が主となり病院全体で積極的に取り組んでいく。また、これまで以上にアレルギー診療に関わる多診療科間ならびに救急救命科、他職種との連携を強固なものとして、より一層シームレスな難治性アレルギー診療を可能とできるよう邁進していく所存である。当科ならびに小児科はその点で更なるリーダーシップを発揮していくことになる。また、院内だけでなく、城南地域の医療機関との医療連携を深め、特別区や保健所・センターなど行政が主導する医療政策・サービスにも協力し、区民・都民・国民の健康・福祉の向上に昭和大学病院全体で取り組めるよう小児科とともに準備を進めている。

また、大学における内科学講座の一部門として、難治性アレルギーの研究を基礎・臨床の両面から推進し、かつ医学部生の卒前教育においてアレルギー疾患を十分に学べるようなカリキュラム作りを遂行している。一昨年より、医学部4年生~6年生の学生を対象に「アナフィラキシーショック」に対するシミュレーション実習授業を行っており、他の医学部にはない新たな医学教育の手法として学会・研究会などで現在注目を浴びている。とくに2020年に大流行したCOVID-19感染拡大(コロナ禍)のなか、臨床実習をオンライン化した取り組みが文科省より評価された(文部科学省 日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Port)Body Interact®を使用した病院臨床実習に替わるオンライン臨床医学教育カリキュラム)。

謝辞

大田区保健所長 西田みちよ先生、大田区蒲田医師会長 横川敏男先生をはじめ、昭和大学呼吸器・アレルギー内科の同門の諸先生方には医師会との連携協議で大変お世話になっており、誌面をお借りして心より深謝いたします。

参考文献

厚生労働省ウェブサイト. アレルギー疾患対策基本法.
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78ab4117&dataType=0&pageNo=1 (2019年12月25日閲覧)

日本アレルギー学会 医学生・若手医師向け情報サイト Allergology Now. アレルギー疾患対策基本法-アレルギー疾患対策基本法とはどういう法律なのか.
https://www.jsaweb.jp/modules/law/index.php?content_id=1 (2019年12月25日閲覧)

東京都アレルギー情報navi. 東京都アレルギー疾患医療提供体制.
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/02/28/06.html (2019年12月25日閲覧)

文部科学省 日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Port)
Body Interact®を使用した病院臨床実習に替わるオンライン臨床医学教育カリキュラム
https://www.eduport.mext.go.jp/covid-19/educational/post-1.html (2020年10月23日閲覧)

著者

鈴木 慎太郎(教育担当者、診療科長補佐)