特発性蕁麻疹および特発性アナフィラキシーとは、明らかな誘因(原因)が見つからない蕁麻疹やアナフィラキシーのことです。原因は不明ですが、起こっている体内の仕組みは通常のアレルギー反応と同様で、肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球といった免疫細胞が活性化されヒスタミンなどの物質が放出されることで症状が生じます。診断にあたっては、「特発性」と判断する前に他の類似疾患を慎重に除外する必要があります。例えば、全身のマスト細胞が増殖・過剰反応する肥満細胞症/肥満細胞活性化症候群や、ブラジキニンの異常による血管性浮腫(遺伝性血管性浮腫など)、神経精神疾患(咽頭過敏症、ミュンヒハウゼン症候群)といった、アレルギーに似た症状を呈する疾患との鑑別が重要です。こうした他疾患をすべて否定した上で、初めて原因不明の蕁麻疹・アナフィラキシーを「特発性」と診断します。
特発性アナフィラキシーや特発性蕁麻疹は、無数にある原因アレルゲンをすべて除外するためには、詳細なアレルギー評価(問診、検査)が不可欠なため、臨床的にはそれほど稀ではなく「ありふれた疾患だが診断は容易ではない」状況です。
急性蕁麻疹の30~50%、慢性蕁麻疹の80~90%が特発性であり、原因の特定が難しいことが知られており、蕁麻疹を生じることが必ずアレルゲンがあるわけではないことも示しております。特発性蕁麻疹の頻度は一般人口の約1~2%とされ比較的よくみられます。
成人のアナフィラキシー症例の約20%は初診時に原因不明とされます。その後の詳しい検査過程で約半数の患者では原因が特定されますが、残りの約半数(全体の約10%)は最後まで原因不明のまま特発性に分類されます。
特発性蕁麻疹/アナフィラキシーの治療は症状の重さや頻度に応じて段階的に行います。まず、蕁麻疹やアナフィラキシーの急性症状に対しては抗ヒスタミン薬の内服などで症状を抑えます。症状の頻度が高い場合(例えばアナフィラキシーを繰り返す場合や慢性蕁麻疹が続く場合)は、抗ヒスタミン薬の定期内服による予防的治療を行います。それでも抑えきれない難治性の場合には、オマリズマブ(抗IgE抗体)という生物学的製剤の注射が有効なことがありますが本邦では保険適応外になっております。また、一部の患者さんで「添加物や化学物質に対するアレルギー反応による症状」と思われていたものが、実際には長期間持続する特発性蕁麻疹であり、上述の治療(抗ヒスタミン薬やオマリズマブ)に反応するケースもあります。
特発性とはいえ適切な治療により症状のコントロールは可能です。また予後は比較的良好で、時間の経過とともに症状が収まる例が多いことも知られています。実際、特発性蕁麻疹は90%以上の患者さんで数年以内に自然寛解されており、より重篤な症状を生じる特発性アナフィラキシーも約65%の患者さんで数年間の経過で発作が起こらなくなる(寛解する)との報告があります。焦らず主治医と相談しながら根気よく治療を続けることで、ほとんどの患者さんは最終的に症状から解放される見込みがあります。