研究

研究活動

呼吸器疾患・アレルギー疾患の病態解明、新規治療法の開発につながるような研究活動を行っています。
研究活動を通して、医学の発展に寄与することを目標としています。

臨床研究

喘息の病態解明

当教室では、喘息の本質的な病態メカニズムの解明に向けて、臨床・基礎の両側面から多角的な研究を展開しています。

研究の背景と目的

喘息は、気道の慢性炎症と可逆性の気流制限を特徴とする疾患であり、発症・増悪に関与する免疫学的メカニズムや環境因子、気道構造変化(リモデリング)など多くの要素が複雑に関与しています。我々は、これらの病態の理解を深めることで、個別化医療の実現と新規治療戦略の開発を目指しています。

主な研究テーマ

  • 気道リモデリングの進展機序
    気道平滑筋や線維芽細胞に着目し、構造的変化のメカニズムとその可逆性について、基礎研究含めた解析やバイオマーカー評価を通じて検討しています。
  • 成人重症喘息における生物学的製剤の治療実態と効果予測因子に関する長期的検討
    現在重症喘息患者を対象に上市されている生物学的製剤の臨床効果と、臨床的寛解を予測する因子の探索を行っています。
  • 喘息診療における強制オシレーション法(FOT)の活用
    喘息の臨床的寛解達成を予測するFOT パラメータの解析や治療反応性を評価するパラメータの探索を行っています。

肺癌に関する研究

当教室では、肺癌に関する基礎から臨床に至る幅広い研究に取り組んでいます。

肺癌の病態解明

上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)は、特定の遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者に対して高い抗腫瘍効果を示す治療薬です。しかしながら、その効果は時間とともに減弱し、耐性獲得が大きな課題となっています。当教室では、EGFR-TKI 治療を受けている患者さんの血液からcell-free DNA を抽出・解析し、耐性獲得機序の解明および新たな治療効果予測因子の探索を行っています。さらに、オシメルチニブおよびその代謝物の血中・組織内濃度に注目し、治療反応の個人差に関連する因子についての研究も進めています。

実臨床に基づいた肺癌診療の評価

高齢化が進む我が国では、多くの併存症を抱えた肺癌患者の治療が求められており、大学病院はその中心的な役割を担っています。当教室では、現実の診療現場(リアルワールド)での治療成績、安全性、予後予測因子に関する研究を積極的に行っています。特に、併存症を有する高齢患者に対する適切な治療選択や、副作用マネジメントの最適化に寄与する知見を蓄積し、日常診療に還元することを目指しています。

<SAS>

当教室では臨床の場で20 年以上前からPSG 検査を行い、当時の臨床研究において様々な報告を行いました。

  1. Elevated levels of C-reactive protein and interleukin-6 in patients with obstructive sleep apnea syndrome are decreased by nasal continuous positive airway pressure
  2. Elevated production of tumor necrosis factor-alpha by monocytes in patients with obstructive sleep apnea syndrome
  3. Silent brain infarction and platelet activation in obstructive sleep apnea
  4. Increased carotid intima-media thickness and serum inflammatory markers in obstructive sleep
    apnea
  5. Increased levels and activity of matrix metalloproteinase-9 in obstructive sleep apnea syndrome

これらの報告は、その後、睡眠時無呼吸症候群が全身での炎症を惹起することで、高血圧や心血管疾患、糖尿病、肥満などをはじめとしたさまざまな全身疾患との関連することを裏付けることにつながるものでした。その後、研究留学を経て、基礎研究としてのマウスモデルにおける睡眠時無呼吸に伴う間欠的低酸素曝露装置を用いた実験を継続しました。

最近では、睡眠時無呼吸患者の外来診療におけるアシストツールの開発を進め、様々な業界の中でも最も遅れているとされる医療業界において、経済産業省が進めている、DX 推進ガイドラインに即した、DX(デジタルトランスフォーメンション、Digital Transformation)化を進めています。

今後も、臨床研究、基礎研究、DX 化など、様々な研究を進めていく予定です。

医学生や研修医の先生で興味があるようでしたら、一緒に進めて行きましょう。

医学教育に関する研究について

当教室では、医学部学生に対する臨床技能教育の質の向上を目指し、シミュレーターを活用した教育手法の研究に取り組んでいます。

限られた臨床実習時間の中でも、医学生が安全かつ効率的に臨床技能を習得できる環境を整えることは喫緊の課題です。各種シミュレーターを用いた反復学修によって、診療手技の確実な習得と学修意欲の向上を図っています。

具体的には、静脈採血、末梢静脈路確保、動脈採血、気道吸引、呼吸音聴診、鼻腔・咽頭ぬぐい液の採取、胸腔穿刺、気管支鏡操作など、多岐にわたる臨床技能に対応したシミュレーターを用いて、技術修得のための学修を行っています。これらのシミュレーション学修が、学生の主体的な学びや学修モチベーションにどのような影響を与えるかについても検証を行っており、教育効果を科学的に評価しながらカリキュラム改善に活用しています。

今後も、より良い医学教育環境の構築に寄与すべく、教育研究を行っています。

アレルギー

アレルギー疾患克服への挑戦:拠点病院としての臨床研究とエビデンス創出

当院は都内2施設のアレルギー拠点病院として、全国から患者さんをご紹介いただいております。臨床上は、特にアニサキスアレルギー、成人の診断(皮膚試験・食物経口負荷試験)、免疫療法、渡航などの社会生活支援では国内有数の症例経験を有しております。また、研究活動も活発であり、当教室はアレルギー疾患の病態解明と治療法開発のため、以下の研究に取り組んでおります。

  1. アナフィラキシー疫学研究と対策
    全国規模の前向き研究(ANA-J study)を主研究機関として推進し、アナフィラキシーの実態把握と重症化因子(運動・薬剤等)解明による予防法確立を目指します。また、成人免疫療法の効果検証、地域におけるアレルギー検査・治療の普及に関する研究も推進しております。
  2. アニサキスアレルギーの包括的研究
    豊富な症例に基づき診断・治療法の確立を目指しております。現在は国立病院機構・相模原病院による大規模研究が進行しておりますが、依然として本邦での同疾患のエビデンスが乏しいです。診断・治療法の検出のほか、微量アレルゲン(魚介出汁や昆布など)の厳格回避が特異的IgE 抗体価や予後に与える影響、職業性曝露リスク等も調査しております。
  3. 成人食物アレルギー全国調査への参画
    国立病院機構相模原病院主導の全国調査に分担研究機関として参加し、成人食物アレルギーの疫学・診療実態を調査、エビデンスに基づく診療指針策定に貢献しております。

これらの研究を通じ、アレルギー疾患に苦しむ患者さんのQOL 向上に貢献すべく努めてまいります。

基礎研究

アレルギー喘息モデルマウスを用いた研究

当教室ではアレルギー喘息モデルマウスを用いた研究を行ってきました。Balb/cマウスに、オボアルブミンやハウスダスト抽出液、アルテルナリアなどの真菌抽出液を吸入させることで、喘息に特徴的な好酸球性気道炎症や気道リモデリングを持った喘息モデルマウスを作成することができます。アレルゲン曝露後の炎症を引き起こすシグナル経路の解明や吸入ステロイドや気管支拡張薬などの反応性を評価し、新規薬物の有効性を評価する研究を行っています。

気道上皮細胞を用いた研究

気道上皮細胞を用いた気道疾患の病態解明に取り組んでいます。気道上皮細胞株として、BEAS-2B、Calu-3、16HBE14o-などを所有・保管しています。またヒト気道上皮細胞培養も行うことができる環境を有しています。気相液相培養(air-liquid interface: ALI)を行うことでより生体に近い環境で培養を行い、細菌やウイルス、タバコ煙などによる気道上皮細胞への影響を検討し、各種治療薬の反応性を検討する実験を行っています。喘息やCOPDの病態解明につながる研究を継続して行っています。

科研費など競争的資金獲得状況

科研費

  • 喘息患者における広域周波オシレーション法での呼吸抵抗に基づいた新規治療法の探究
    22K15676 若手研究 宮田裕人
  • IL-34のM2マクロファージを介した喘息病態における役割の解明
    24K19094 若手研究 江波戸貴哉

当教室で行える研究内容

昭和大学呼吸器・アレルギー内科では、他大学・研究機関とともに積極的な共同研究を行っています。当教室では以下の研究資材や臨床関連検体を利用できる環境にあります。
共同研究のご提案がありましたらお気軽にご連絡ください。

  • 気道上皮細胞培養(細胞株、ヒト気道上皮細胞)
  • 末梢血単核細胞(PBMC)培養(細胞株、ヒトPBMC)
  • 疾患モデルマウス(喘息、COPD、ARDS、肺線維症、Balb/c、C57BL6マウス)
  • アレルゲン抽出液曝露実験
  • たばこ抽出液曝露実験
  • 遺伝子発現解析(PCR、RNA-Seq)
  • 蛋白発現解析(ELISA、ウェスタンブロット、免疫化学組織染色)
  • フローサイトメトリー
  • エクソソーム発現解析
  • アロマセラピーに使用する精油など香気成分による気道上皮保護作用に関する基礎研究
  • 動物アレルギーに関する重症化因子の解析
  • 呼吸器疾患臨床データベース(喘息、COPD、肺癌、びまん性肺疾患、新型コロナウイルス感染症COVID-19)
  • アレルギー疾患臨床データベース(食物アレルギー、アニサキスアレルギー、アナフィラキシーショック(成人例)、ANA-J(サブ解析データ))
  • 血清など臨床残余検体(患者さんから包括的同意を取得したもの)
  • 研究への患者・市民参画(PPI)(アニサキスアレルギー協会との連携事業(鈴木慎太郎))

海外留学先一覧

  • サザンプトン大学(イギリス)
  • ハーバード大学(アメリカ)
  • ピッツバーグ大学(アメリカ)
  • メイヨークリニック大学(アメリカ)
  • ヨーテボリ大学(スウェーデン)