食物アレルギー治療の研究は目覚ましく進展しており、従来の経口免疫療法を改良・補助する第5世代の免疫療法とも呼ぶべき新たな戦略が登場しています。
従来、OITは通常一つの食物アレルゲンに対して行われてきましたが、食物アレルギー児の約30%は複数の原因食物を持つため、同時に複数のアレルゲンを経口投与する試みがなされています。初期の臨床研究では、複数アレルゲン同時OITは単一アレルゲンOITと比較して有害反応の頻度に大差なく(反応率:多種OIT群3.3% vs 単一OIT群3.7%/投与回あたり、p=0.31)安全に遂行可能であることが報告されました。このように多種同時OITは実施可能性が示されつつあり、最近ではさらに症例数を増やした研究やランダム化比較試験が進行中です。将来的に、多数の食物アレルギーを持つ患者にも一括した治療アプローチが提供できる可能性があります。
乳酸菌など善玉菌を同時に投与して腸内環境を整えることで寛容誘導を助ける試みです。オーストラリアから報告された二重盲検試験では、ピーナッツOITとプロバイオティクス(Lactobacillus rhamnosus)を併用した群で82.1%もの患児が治療終了後に耐性獲得(一定期間中止後の負荷でも無反応)に成功し、プラセボ群の4%を大きく上回りました(p<0.001)。この画期的な結果は併用療法による免疫寛容誘導促進の可能性を示しています。現在、プロバイオティクス併用療法の長期有効性を検証する追跡研究も行われており、将来の実用化が期待されます。
オマリズマブはIgEを中和する生物学的製剤で、これをあらかじめ投与してからOITを開始すると初期のアレルギー症状が大幅に軽減し、より高用量まで迅速に増量できることが示されています。実際、オマリズマブ前処置により数週間で維持量に到達する“ラッシュOIT”の成功例も報告されており、難治症例や成人例でのOIT成功率向上に寄与すると期待されます。抗IgE併用療法は現在までにピーナッツや卵、ミルクなどで試みられ、有害事象の減少と治療継続率向上につながるとのエビデンスが蓄積しつつあります。
経口以外の新規経路による免疫療法があります。EPITはアレルゲンを含むパッチを皮膚に貼付する方法で、特にピーナッツアレルギーに対するViaskin®パッチ製剤の開発が進んでいます。2023年の第III相比較試験(EPITOPE試験)では、1〜3歳の乳幼児に1年間ピーナッツパッチを貼付した群でプラセボ群に比べ有意に耐性閾値が上昇し、治療成功率が高まったことが報告されました。EPITは経口摂取を伴わないため全身症状が少なく安全性に優れる一方、効果は経口療法よりもマイルドで、一部の患者で摂取可能量が多少増加するに留まります。成人では容量の問題か、免疫機序の問題か効果は乏しい結果が出ていますが、現在、乳幼児ピーナッツアレルギーへのEPIT製剤が海外で承認申請中であります。
以上のように、食物アレルギーの免疫療法は個々の患者に合わせて進歩しつつあります。単一食物ごとの経口免疫療法から、複数アレルゲン同時治療、生物学的製剤やプロバイオティクスとの併用、新たな経路(経皮・舌下)や製剤開発まで、多方面から安全性と有効性を高める試みがなされています。これら新しいアプローチの確立により、これまで治療が難しかった思春期・成人例や多重アレルギーの患者にも、症状緩和や寛解の可能性が広がると期待されます。今後も国内外のガイドラインやエビデンスを注視しつつ、患者一人ひとりに最適な治療法を提案できるよう努めていきます。