2. アナフィラキシーの治療
Treatments for anaphylaxis

プレホスピタルケアの重要性

迅速なエピペンの使用

アナフィラキシーは発症からわずか数分〜数十分で致命的になり得ます。そのため、医療機関に到着する前(プレホスピタル)の対応が生死を左右します。国内外のガイドラインは、症状を疑った時点でただちに大腿前外側へアドレナリン自己注射薬(エピペン®)を筋肉内投与するよう強く推奨しています。しかし実際にエピペンを携行している患者さんは9〜28%に過ぎないとの報告があり、使用の遅れが重症化の一因となっています。食物アレルギーによる発作を対象にした研究では、エピペンを発症早期に使用した群の入院率は17%で、未使用群の43%に比べ有意に低下していました(p<0.001)。

エピペン使用時のポイント:

  • ためらわず速やかに注射:アナフィラキシーが疑われたら迷わず注射します。
  • 体位の保持:患者さんを仰向けに寝かせ、可能なら足を30 cmほど上げてください。呼吸困難や嘔吐があれば患者が楽な体制にする急に立ち上がると血圧がさらに低下し心停止の危険があります。
  • 救急要請と受診:アドレナリンの効果持続時間は長くありません。血中半減期はわずか数分程度とされています。そのため、一本のエピペンで一時的に症状が治まっても、薬剤効果が切れる30分〜1時間後には再び症状がぶり返す可能性があります。エピペン後に症状が軽快しても必ず救急車を呼び、医療機関で観察を受けましょう。

アナフィラキシーの加療

緊急治療

昭和医科大学病院では救急科・集中治療部・呼吸器アレルギー内科が連携し、24時間体制でアナフィラキシー治療にあたっています。初療では

  • アドレナリン 0.3〜0.5mg(成人)を筋注し、効果不十分なら5〜15分毎に追加
  • 酸素投与・点滴ルート確保
  • 状況に応じて急速輸液、気道確保、アドレナリン静注持続投与を行います。
  • 抗ヒスタミン薬やステロイドは補助的に使用しますが、急性期の主役はあくまでアドレナリンです。

二相性反応/セカンドアタック

症状が落ち着いても数時間〜半日後に再燃する「二相性反応」が0〜6%で報告されています。二相性反応は初回より軽く済む場合もありますが、時に初回同様に重篤となりえます。発生率は0~6%程度と報告されており、約半数は初回症状から6~12時間以内に起こるため、当院では原則4〜6時間以上(重症例では24時間程度)の経過観察を行います。

再発予防と専門外来での精査

退院後の再発予防はきわめて重要です。当科では、再発時に備えた緊急対応計画を含む患者教育用ハンドブックを作成し、配布しております。概要は ApoTalk誌(参考文献参照)に掲載済みですので、必要に応じてご参照ください。以下に外来で実施している主な精査・指導項目をご紹介します。

  • 原因検索:当科外来で血液検査(特異的IgE・コンポーネント検査)、皮膚試験、必要に応じ負荷試験を行い、原因アレルゲンを特定します。原因物質が判明しましたら、食品選択、薬剤使用、蜂刺傷対策など、患者さんごとに具体的な回避策をご提案します。
  • Cofactor指導:成人症例では「運動・飲酒・入浴・NSAIDs 内服」など複数因子が同時に存在することで発症リスクが高まりますので、これらの組み合わせを避けるよう注意を促します。
  • 危険な状況の伝達:特にアナフィラキシーを生じやすく、エピペンを忘れやすい場面(スポーツやパーティーなど)を伝達し、そのような場面での一層な注意喚起をしております。また、職場や学校、外食先ではアレルギーを事前に伝え、発作時の対応を共有してください。
  • 社会教育:先に述べた通り、小児では経験しない・指導されていない成人特有の危険行動(飲み会、パーティーなど)が報告されており、そのような場面それぞれでの対応方法や、海外旅行・修学旅行などの支援・指導をパンフレットを使い説明しております。
  • 緊急対応教育:エピネフリン自己注射薬(エピペン®)の携行・保管・投与方法を患者さんとご家族に繰り返し指導し、友人や同僚の方にも使用方法を共有していただくようお願いしています。また、約1割から2割の患者では、最初のアドレナリン投与後も症状が持続したり再度悪化するため、追加のアドレナリン投与が必要になります。エピペンは可能なら2本の携帯をお勧めします
  • 併存疾患の管理:気管支喘息のコントロール不良や、アレルゲン感作源(化粧品、ペットとの接触、工場などでの薬品や粉塵アレルゲンに暴露する環境など)が持続する場合は重症化因子となるため、吸入療法の強化や社会生活指導など適切な管理を行います。

引用:

  • 東京都アレルギー疾患対策検討委員会. 食物アレルギー緊急時対応マニュアル 2025年3月版。URL: https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/allergy/pdf/pri20.pdf
  • Cardona Vほか. 世界アレルギー学会ガイドライン2020. World Allergy Organ J. 2020;13(10):100472

  • 能條眞, ほか. 成人のアナフィラキシー患者指導について. ApoTalk. 2025; No.98: 1–4. URL : https://www.kyorin-medicalbridge.jp/library/apotalk/
  • Turner PJほか. 致死的アナフィラキシー:致死率と危険因子. J Allergy Clin Immunol Pract. 2017;5(5):1169-1178
  • Fleming JT ほか. 早期のエピペンが入院率を減らす. J Allergy Clin Immunol Pract. 2015 Jan-Feb;3(1):57-62.