「Hidden Allergen/隠れたアレルゲン」とは、一見すると意外な食品や添加物に潜んでおり、患者や医師が原因として見逃しがちなアレルゲンの総称です。ここでは代表的な隠れたアレルゲン6項目について、含まれる食品例や誤食リスク、疫学データ、海外での状況、市場流通、表示制度などをわかりやすく解説します。
経口ダニ症候群(通称「パンケーキ症候群」)は、ダニに汚染された小麦粉製品などを食べることで起こる重度のアレルギー反応です。例えば、開封後に常温で長期間放置されたホットケーキミックスやお好み焼き粉、たこ焼き粉などでダニが繁殖し、それらを調理して摂取すると発症します。ダニ自体は食品の成分ではなく家庭内での粉類保存状態による汚染なので、市場流通上の統計はありません。しかし近年の報告増加により注意喚起が行われており、日本でも梅雨〜夏の高温多湿期には粉製品の密閉・冷蔵保存が推奨されています。予防には開封後の粉類を早めに使い切ることや冷蔵保存といった管理が重要です。医師や患者も粉物摂取後の原因不明アレルギーでは本症を念頭に置く必要があります。
コチニール色素(カルミン)は、コチニールカイガラムシという昆虫由来の天然赤色着色料です。発症の原因は、本邦では化粧品が多く20‐30代女性が化粧品として頻用した結果の皮膚アレルギーを契機に、徐々に増悪し食物などにも反応するようになる症例が多いです。海外では職業的に大量の色素を扱う作業者での喘息発症(職業性喘息)なども問題視されております。成人アレルギーの1%を占めるCommon Hidden Allergenとなっております。まれながら小児男児の症例報告もあり侮れないCommon Diseaseになっております。口紅やアイラインなどの化粧品に加え、キャンディー、清涼飲料、加工食品の赤色着色(ソーセージ、柴漬け、イチゴミルク、果てはミニーマウスのリボン型のファルファッレ(パスタの一種)など)にも広く使われております。天然色素であるがゆえに大量生産が困難であったが、現在は商業的生産が拡大させることができ、EUを中心に合成着色料を嫌う「天然志向」の市場で重宝されております。2009年にFDA(食品医薬品局)が食品や医薬品へのコチニール色素添加時には「コチニール」「カルミン」と明示する表示規則を制定し、EU・日本では食品・医薬品・化粧品でも成分表示が義務化されていますが、記載名称はPigment Red 4、E120、CI75470などの一見カルミンと分からない表示がされていることもあることに加え、パッケージには記載がなく、WEBページに記載がされているのみのケースも散見されている。当院の皮膚検査の結果、プリックテストの診断率は50%程度で、半数の症例は皮内テストを行わないと診断が難しかった症例も多く、専門病院でないと診断が難しい可能性があります。
香辛料(スパイス)による食物アレルギーは全体としてまれですが、専門家でも原因究明が難しい隠れアレルゲンの一つです。マスタード(からし)はドレッシングやソーセージ、カレールーなど様々な加工食品に含まれ、意識せず摂取してアレルギー症状を起こすことがあります。フェンネル(ウイキョウ)はハーブや香草酒、スパイスミックス(五香粉など)に使われます。感作経路の主は花粉症からの経気道感作による『セロリ‐ヨモギ – シラカンバ/ハンノキ‐スパイス症候群』(前項のPFAS参照)と、乳幼児からの経腸・経皮的接触の2種類がある。本邦では非常に稀なアレルギーとされているが、マスタード・ヨモギの花粉症が多いEUやカナダにおいては非常にCommonなアレルギーとされている。本邦でも重度のナッツアレルギーや花粉症患者が併存する可能性があります。本邦での認知度は低く、患者もスパイスがアレルギーと認識できない場合が多く、発見が遅れる要因となりえます。
ピーナッツ(落花生)や大豆以外にも、マメ科の食品には隠れたアレルゲンが存在します。代表的なのがルピナス豆(ルーピン)・フェヌグリーク(コロハ)・レンズ豆です。これらマメ科食品のアレルギーは日本では極めて稀で、明確な有病率データはありませんが、マメ科ピーナッツのアレルギー患者の5%がこれらマメ科類に交差反応・アレルギー反応を生じることが報告されております。
地中海原産の豆で、高蛋白・低脂質・高食物繊維のスーパーフードとして、オーストラリア、ドイツ、フランス、イタリアなどを中心に毎年約 50 万トンが、ビーガン製品や小麦粉製品に含有する形で販売されている。そのためピーナッツアレルギーの人が知らずにルピナス含有食品を摂取しアナフィラキシーを起こすケースが見られます。欧州などは人口の5%近い患者が感作しているCommon Hidden Allergenとしてアレルゲン表示にも追加されました。
日本では馴染み薄いものの、インド料理や中東料理で頻用されております。近年は高蛋白・低糖質・グルテンフリーという健康食品として過去40年で生産量が2倍近くに増え、欧州を中心に健康食ブームとして消費が増えています。スペインでは小児の食物アレルギー原因の第5位がレンズ豆などのマメ科豆類であり、重篤な症状を起こすこともあると報告されています。
ハーブ・スパイス・生薬として使用され、カレーなどのスパイスミックス、ハーブサプリメントとして用いられ、ピーナッツとの交差反応で喘息やショックを起こす症例報告もあります。ルピナス豆・レンズ豆などのマメ科同様に、海外旅行などで発覚するケースもあります。
日本では非常に有名な食物アレルゲンで、小児アレルギーの第6位になります。日本人には蕎麦麺が典型例ですが、仏のクレープやガレット、露のブリヌィ、韓国の冷麺など各国料理にも使われています。欧米ではグルテンフリー食の材料として重宝されており、グルテンフリーのパンケーキの49%、パスタの80%にソバが用いられているとの報告もあります。蕎麦アレルギー患者は蕎麦粉混入食品のみならず、蕎麦殻枕の粉塵吸入でも発作を起こすことが知られています。実は蕎麦殻枕は中国・韓国でも盛んであり、薬学書『本草綱目』には清脳明目(頭をすっきりさせ、目を明らかにする)、安神(精神を安定させる)」効果が示されており、現代においても民泊でみられることがある。洗濯が難しく・耐用年数も低い関係で大型ホテルでの採用率は低いが、中国・韓国では選択式で使用が出来る高級ホテルも散在している。また、ソバを成分表示している国は韓国と本邦のみであり、海外旅行においては一層の注意が必要である。
食用昆虫(コオロギ、ミールワームなど)は新たなタンパク源として注目されていますが、ダニや甲殻類(エビ・カニ)アレルギーを持つ人には特に注意が必要な隠れアレルゲンです。食用のミールワームは乾燥粉末やスナック菓子として欧州を中心に商品化されつつあります。甲殻類アレルギーの方が「昆虫だから大丈夫」と思って試食し、実は同じ節足動物由来のアレルゲン(トロポミオシン等)のためにアナフィラキシーを起こすリスクがあります。欧州食品安全機関(EFSA)は2021年にミールワームを「食用として安全」と認可しましたが、同時に「甲殻類やダニにアレルギーのある人はミールワームにもアレルギー反応を起こす可能性が高い」と注意喚起しています。実際、オランダの研究ではエビ・カニアレルギー患者の87%がミールワームに対して経口負荷試験でアレルギー反応を示したという報告があり、その交差反応の強さが明らかになっています。これは昆虫と甲殻類が同じ節足動物門で生物学的に近縁なため、共通のアレルゲン(筋肉タンパクのトロポミオシン等)に免疫が反応してしまうためです食用昆虫は東南アジアやアフリカでは伝統的に約20億人が食べているとも言われ、欧米でも環境に優しい「サステナブル食品」として市場が拡大しています。ミールワームやコオロギ粉はEUでNovel Food(新規食品)として承認され、大手食品メーカーも参入しています。現時点で昆虫由来食品に特別なアレルゲン表示ルールはありません。しかしEUでは製品に「甲殻類アレルギーのある人は摂取を避ける」旨の注意表示が推奨されています。甲殻類アレルギーやダニアレルギーを持つ患者は、安易に昆虫食に手を出さず、医師と相談することが望ましいでしょう。