4. 大学生における食物アレルギーの管理

致命的なアナフィラキシーの危険性

食物アレルギーによるアナフィラキシーは、10代後半から20代前半の若年成人で致命的に陥るリスクが高いことが報告されています。実際、食物誘発アナフィラキシーによる死亡症例の約75%は21歳以下に集中しており、この年代は高リスク群とされています。致死的なアナフィラキシー症例の多くでは基礎疾患として喘息を有し、エピネフリン(アドレナリン)の投与が遅れたことが指摘されており、コントロール不良の喘息合併やエピネフリン注射の遅延は致命率を高める重要な因子です。これらの背景には、若年層に特有のリスクテイク行動やエピネフリン使用への抵抗感があると考えられており、アレルギー反応時の即時対応の遅れや自己管理意識の不足が命に関わる可能性があります。十分な自己管理と迅速なエピネフリン投与が、この年代の患者の生命を守る上で極めて重要です。

大学生のHigh Riskな社会的行動

自分ルールへの過剰な信頼/アレルギー管理の緩み

大学生活においては、自立や社交上の理由からアレルギー管理の徹底が緩みがちです。調査によれば、食物アレルギーを持つ大学生のうち日常的にアレルゲンを完全に避けている者は約40%に留まると報告され、約60%は食品表示の確認漏れや「少しなら大丈夫」という判断で危険な食品を口にしていました。また、エピネフリン自己注射薬の携帯率も低下しがちで、大学内でアレルギー反応を起こした学生のうち発症時にエピネフリンを所持していたのはわずか21%に過ぎません。過去にアナフィラキシーを経験した学生でも、常に自己注射薬を携行していると答えたのは6.6%という報告があり、多くの学生がリスク場面で必要な薬剤を持ち歩いていない現状が浮き彫りになっています。さらに、友人や周囲へのアレルギーの未申告(いわゆる「周囲に打ち明けることへの疲れ」)も見られ、発作時の対応が遅れる一因となっています。

社会生活に伴うCofactor

大学生の社会生活では、飲酒・スポーツ・デートなどアレルギー発作の誘因(Cofactor)となり得る行動が増える点にも注意が必要です。例えばアルコール摂取や激しい運動はアナフィラキシーの誘発因子となり得ることが知られており、飲酒は判断力の低下に加えて生体反応的にもアレルギー反応の閾値を下げる可能性があります。また、スポーツ(運動)は特に有名な誘発因子で、特定の食物摂取後の運動により症状が誘発される「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」がこの年代でも問題となります。加えて、デート中の食事やキスによるアレルゲン曝露(相手が摂取した食物が唾液を介して伝播)もリスクとなり得ます。

大学生ならではのリスク管理

しかしながら、大学生の多くはこうしたリスク認知が不十分であり、本人の自覚以上に命に関わるギャップが存在しています。このような社会生活の拡大に伴う新たなリスクの発生は成人アレルギー分野特有の問題であり、大学生活において自らのアレルギーリスクを再認識し、どのような場面でも適切な対策を講じるための指導が重要になります。

大学生の食物アレルギーの管理

自己管理能力の向上と周囲の支援体制の構築

大学生の食物アレルギー管理において重要です。まず、学生本人がアレルゲン回避策の徹底と発作時の対応法を習得し、自らリスクに対処できるようになる必要があります。大学入学前には主治医と相談の上、自分用のアレルギー緊急対応計画書(アクションプラン)を作成しておきましょう。学生はこの計画書を覚え、エピネフリンなどの救急薬剤を常に携帯し、発作時にはためらわず速やかに使用できるよう訓練しておくことが大切です。

医療機関やアレルギー支援団体との継続的な連携

例えば国内外の患者支援団体の情報や指導を活用し、最新の知見に基づいた対策を学ぶことができます。これら市民団体への所属などで、社会生活におけるアナフィラキシーの意識づけができ、エピペンの持参率が変化することが報告されております。

小児期から成人期への移行期医療(トランジション)の整備

本邦では成人の食物アレルギー患者に対する医療支援体制は未だ十分とは言えません。大学入学を機に小児科から成人科へ診療の場が移るケースも多いため、主治医や専門医と相談しながら、大学生活に即したアレルギー管理計画を再構築することが望まれます。食物アレルギー患者が大学で安心して生活し、学業に専念できるよう、周囲の理解と適切なサポートの下で予防的指導と自己管理を徹底することが重要です。

参考文献(References)

  • 海老澤 元宏. 食物アレルギー診療ガイドライン2021 小児~成人まで. アレルギー. 2022;71(10):1195-1200.
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