食品中のアレルゲン(原因食材)表示は、食物アレルギー患者の安全確保に不可欠です。日本では世界に先駆け2002年から特定原材料7品目(卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに)の表示義務制度が導入され、重篤事故の教訓も経て改正が重ねられてきました。最近ではクルミによる症例増加に伴い、2025年までにクルミを義務表示に追加(計8品目)することが決定しています。また2019年にはアーモンドが推奨表示品目に新たに加えられました。国内調査では2020年の食物アレルギー症例全体のうち卵が33%、乳19%を占め、木の実類も13.5%に上ったと報告されています。表示制度の改善点として、近年は明白なアレルゲン含有食品にも表示が必要となり、例えば「マヨネーズ(卵を含む)」等と明示されるようになりました。また「ホエイ(乳清)」等の専門用語も「乳成分」など平易な表記に統一されています。
それでも日本の表示制度には課題が残ります。義務表示項目数は他国と比べて少なく、欧州連合では「ナッツ類」全般(アーモンド、ヘーゼルナッツ、クルミ等)を含む14品目、米国でも主要9品目(乳、卵、魚、甲殻類、小麦、大豆、ピーナッツ、ツリーナッツ類、ゴマ)の表示が法律で定められています。日本ではクルミ以外の木の実類は推奨表示にも含まれないため、対面販売の惣菜や外食メニューでは未表示のアレルゲン混入リスクがあります。それでも日本は世界に先駆けて表示制度を開始し、15年以上の運用実績によって食品業界や社会のアレルギー認知度、そしてその順守率は高い水準にあります。
成人の食物アレルギーでは、酒類に含まれるアレルゲンが盲点になりがちです。日本の食品表示法上、酒類は原材料やアレルゲンの表示義務対象外であり、ビールや洋酒に卵・乳・穀物・ナッツ由来の成分が使われていても表示されません。例えば小麦を原料とする白ビール、清澄に卵白や乳タンパクを用いるワイン、アーモンド(杏仁)を使うリキュールなど、多様な酒類にアレルゲンが潜みます。蒸留酒ではタンパク質が極微量となるため重篤な症状は稀ですが、ビール摂取でアナフィラキシーを起こした報告も実際にあります。さらにアルコール摂取それ自体がアレルギー反応を増悪させる誘因(コファクター)となる可能性も指摘されています。重度の小麦・甲殻類・木の実アレルギーをお持ちの方は、飲酒時にもこうした点に十分注意しましょう。
レストランなど外食産業にはアレルゲン表示の法的義務がなく、各店の自主対応に委ねられています。そのためメニュー上のアレルギー情報の有無・網羅性にはばらつきがあります。食品加工段階と異なり、外食ではアレルゲンを完全に避けることは非常に難しいのが現実です。実際、米国の分析では食物アレルギーによる致命的な反応の約半数がレストラン等で発生していました。しかし飲食店従業員のアレルギー知識や訓練はまだ不十分で、店長の44%、調理担当者の41%、接客担当者の33%しか研修を受けていませんでした。欧州の調査でも、アレルギー研修を受けたスタッフは14%に過ぎないのに、大半が「自分は対応できる」と過信し、少量なら平気・加熱すれば安全といった誤解が蔓延していました。本邦でのこのような外食産業における統計調査などは行われておりませんが、外食において事故を防ぐのは自分自身である、という考えが最も重要になります。
外食時には以下の点を徹底することで、不安を和らげつつ外食をより安全に楽しむことができるでしょう。下記リンクに消費者庁から、食物アレルギー表示に関する情報が出版されております。『外食・中食における食物アレルギーに関する動画』や、食品表示の落とし穴を記載した『加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック』など、患者・店舗向け資料であり、勉強になる内容が満載ですのでぜひご一読を。
予約時や入店時にアレルゲンを伝え、対応可能か確認する
オーダー時や配膳時に担当者が変わった場合も、毎回アレルギー情報を伝える
提供された料理に不安な食材があれば遠慮なく店員に確認し、少しでも怪しければ食べない
アレルギーの確認時にコンタミネーションなどの確認がない店舗、質問に対する応答が曖昧な店舗、誤食のリスクが高い店舗(中華料理などの多国籍料理)、ビュッフェ形式(トングの使い回しで混入しやすい)などは極力避ける
ソースや衣を多用した料理より、焼く・茹でる等シンプルな調理の料理を選ぶ(バターやドレッシングにも注意)
必ずエピネフリン自己注射薬(エピペン)を携行し、万一症状が出たらただちに自己注射する(アナフィラキシーでは初期対応の遅れが致命的であり、ある報告では若年患者の39%がエピペンを常時携行していなかったとされています)。