咳の鑑別

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咳嗽

咳嗽(がいそう、せき)は気道内に貯留した分泌物や吸い込まれた異物を気道外に排除するための防御反応である。誰しもが経験する、頻度の多い主訴の一つである。咳嗽は持続する期間によって3種類に分類される(図)。

急性咳嗽の原因は多くが感冒を含む気道の感染症が原因であり、持続期間が長くなるにつれて感染症の頻度は低下し、慢性咳嗽では感染症が原因になることは稀になる。鑑別疾患するべき疾患として、感染症(細菌、ウィルス、真菌)、感染症以外では喘息を含むアレルギー性疾患、逆流性食道炎(Gastro Esophageal Reflux Disease;GERD)、間質性肺炎、胸部腫瘍、気道異物、薬剤など、多岐にわたる。

咳嗽は上記の通り、ほとんどの呼吸器疾患が原因になる。特に肺炎、肺癌、間質性肺炎、肺塞栓症は急を要する重篤な病態であることが多く、慎重に診療にあたる。「咳を見たら結核と思え」という金言があるが、慢性咳嗽の鑑別に肺結核は無視できない。これらの疾患を考慮するべき所見(Red flag sign)には以下のものが含まれる

  1. 発熱(特に盗汗を伴うもの)
  2. 血痰
  3. 呼吸困難
  4. 胸痛
  5. 下肢浮腫
  6. 体重減少

これらの有無を確認しながら診療を行う。

慢性咳嗽で受診する患者の5~10%は治療抵抗性であり、高次医療機関の専門外来では40%にも達する。治療が困難な慢性咳嗽には原因疾患が不明であるもの(特発性慢性咳嗽)と、原因疾患が診断できているが治療に抵抗性があるものが含まれる。慢性咳嗽の診療において問診や身体所見、検査結果を参考にするが、疾患特異的な身体所見に乏しい場合、上記だけでは咳嗽の原因に結びつかない場合も少なくない。最終的には診断的治療を要することも多く、咳嗽の診療には長い時間を要することもある。また、特発性慢性咳嗽である可能性もあり、その場合は咳嗽の完全な改善が困難となることがある。特発性慢性咳嗽の治療には、長時間作動型ムスカリン受容体拮抗薬、ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチリンや、言語障害治療が有用であると考えられている。

咳喘息は慢性咳嗽の中で日本では最も頻度が高いと言われている疾患である。喘息で特徴的な喘鳴と呼吸困難、検査所見を伴わず、咳嗽のみが続く病態である。経過中に3~4割が真の喘息に移行する。咳嗽は就寝時、深夜、早朝に多いのが特徴的であり、症状の季節性も認められる。喘息との鑑別のために鑑別に用いる検査としては気道過敏性試験、気道可逆性試験、呼気一酸化窒素(FeNO)、血中好酸球数、喀痰中好酸球などがあるが、気管支喘息との特徴が重複する部分もある。上記の検査は当院ですべて施行が可能である。気管支拡張薬に反応するのが特徴であり、治療方針は喘息と同様に吸入ステロイド(inhaled corticosteroid、 ICS)を中等量以上用いる。適切な治療で多くの咳嗽は速やかに軽快する。難治性の症状持続例や再発例もしばしばあり、支喘息への移行を予防するためにも長期管理・治療が必要となることがある。

当院における咳嗽の専門診療

咳嗽は、臓器特異的自己免疫性疾患、心室性期外収縮(premature ventricular contraction, PVC)、外耳異物、睡眠関連呼吸障害(Sleep-related breathing disorders;以前は睡眠時無呼吸症候群Sleep apnea syndrome(SAS)と呼ばれていた疾患を含む概念、閉塞性睡眠時無呼吸Obstructive sleep apnea (OSA)、中枢性睡眠時無呼吸central sleep apnea, sleep-related hypoventilation/hypoxemia syndromesなどを含む)が慢性咳嗽に関与することが知られるなど、新たな発見も認められる分野であるといえる。

当院では急性咳嗽に対する感染症に対する治療だけでなく、呼吸器・アレルギー内科として幅広い、検査、診断、治療を実施している。咳嗽の原因疾患を診断するために、胸部X線、CTなどの画像検索だけでなく、限られた施設でしか実施していない気道過敏性試験、気道可逆性試験、ポリソノグラフィー、気管支鏡を始めとした各種検査を施行可能である。咳嗽は呼吸器専門医の腕の見せ所でもあり、院内外から毎日紹介されてくる多くの患者の症状緩和のため診療技術の研鑽に努めている。上記の通り、咳嗽の原因疾患は多くの診療科の領域に及んでおり、当院が掲げている「チーム医療」にある通り、循環器内科、耳鼻咽喉科、放射線科、感染症内科、感染症対策委員、リハビリテーション科など関連のある各専門科・部署との連携を密に行っている。

添付図表

咳嗽に関するガイドライン第 2 版 – 日本呼吸器学会から改変

リンク

日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019
https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=121

研究業績

鈴木 慎太郎.【呼吸器】アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(真菌症)について 真菌と喘息、慢性咳嗽との関わりも含めて(解説/特集). 2017; 77: 682-689.

相良 博典.【咳嗽診療のすべて】胃食道逆流症(GERD)による咳嗽(解説/特集). 2015; 日本胸部臨床: 74: 1210-1216.

相良 博典.【咳を聴きとり,咳を止める】随伴症状と咳 診断アプローチを理解する アレルギー性疾患が疑われる咳を見た際には?(解説/特集)2015; 25: 467-470.

著者

内田 嘉隆