アナフィラキシーは、食物や薬剤、虫刺されなどのアレルゲンが体内に入ったあと、複数の臓器に急速に症状があらわれる生命を脅かす過敏反応です。血圧低下や呼吸困難などを伴うショック状態(アナフィラキシーショック)に進展することもあります。典型的には皮膚症状(じんま疹・赤み)が目印になりますが、10〜20%の方では皮膚症状が出ないため、呼吸器や循環器症状を見逃さないことが重要です。診断と治療は、アナフィラキシーに熟練した医師が行う必要があります。
世界的にアナフィラキシーは増加傾向にあり、国際報告では年間発生率 0.05〜0.112%、生涯有病率 0.3〜5.1%と示されています。日本では詳細な全国データが限られていますが、年間50〜80人前後がアナフィラキシーで亡くなっており, 近年はハチ刺傷より医薬品が原因の死亡例が最多です。重症リスクは、重度喘息などの基礎疾患を持つ若年者・高齢者で高いことがわかっており、それらの重症化リスクがある患者は注意深い治療・観察が必要になっております。
当科の解析では、成人アナフィラキシーの原因は、①アニサキス(23%)、②小麦(12%)、③薬剤(10%)、④甲殻類(10%)、⑤フルーツ(6%)、⑥ナッツ・木の実類(4%)、⑦野菜(2%)、⑧大豆(5%)、⑧経口ダニ症候群/パンケーキ症候群(2%)、⑧ソバ(2%)、⑨スパイス(1%)、⑩コチニール(1%)となっております。
また、原因がはっきりしない特発性アナフィラキシーも成人では20〜60%と高率で、小児(約10%)より多い点が特徴です。当院の成人アレルギー外来においても初診の段階では20%の患者が原因不明となっており、アニサキス、スパイス、色素、お好み焼き粉中の経口ダニ症候群など、通常のIgE血液検査では原因を特定しにくい、Hidden Allergen(隠れたアレルゲン:後述)が隠れており注意が必要になっております。
まず詳細な問診を行い、発症時刻、直前に摂取・使用した食品や薬、運動や入浴の有無、ハチ刺傷の可能性、既往歴を確認します。
小児では、「普段から安全に食べている食品は安全」、「初めて/久しぶりに摂取した食品は怪しい」と、問診が手がかりになりますが、成人の場合はアレルゲンの摂取量以上に、飲酒や運動、感染症、NSAIDs服用などの増悪因子/ Cofactor(後述)の有無が診断の鍵になります。例えば『普段は大丈夫だが、運動する時、痛み止めを飲むときだけ小麦に反応していませんか?』など、本人が意識していない要因がある可能性があります。
血液でアレルゲンに対するIgE量を測定することでアレルギーを診断できます。しかし、成人での診断精度が落ちること、測定できるアレルゲンの種類が限定されていることが問題視されております。
皮膚反応を見る即時型アレルギー検査です。外来で1時間以内に行える検査であり、非常に簡便性が高いです。全体的な陽性予測精度は50%未満ですが、直接アレルゲンを持参いただくことで非常に豊富な種類のアレルゲンでの検査を施行することができます。
皮内にアレルゲンを直接0.02mL注射する検査方法で、皮膚プリック検査よりもアレルゲンが入る量が増えますので、アナフィラキシーのリスクが高いです(薬剤では4%弱)。海外では死亡例も報告されており、患者によっては入院で施行します。
最終的な確定診断は、疑わしい原因物質を避けることで症状が再発しなくなる除去試験や、誘発試験(食物負荷試験など)で再現性を確認することで行います。しかし誘発試験はリスクを伴うため、通常は原因が絞り込めない難治例や誤診の可能性が高い場合などに専門施設で慎重に実施されます。
診断確定後は、原因物質の除去と回避指導が行われます。患者さん・家族への説明においては、再発時に備えた緊急対応計画を含めた患者指導資料を配布しており、適切な自己管理と医療者の連携により、アナフィラキシーはそのリスクを最小限に抑えることが可能です。